働き方改革が本格的に進む中、企業の「働きやすさ」「法令遵守」を客観的に示す指標として注目されているのが 「社労士診断認証制度 」です。
これは、社会保険労務士(社労士)が専門家の立場から企業の労務管理状況を診断し、一定の基準を満たした場合に認証を付与する制度です。
本記事では、制度の概要やメリット、導入の流れまで、分かりやすく解説します。
目次
社労士診断認証制度とは
労務コンプライアンスや働き方改革に取り組む企業を支援するため、社労士が企業を診断し、認証する制度です。認証された企業には認証マークが発行されるため、求職者や自社の従業員、取引先に対して「人を大切にする企業」であることを積極的にアピールすることが可能です。
この制度は2020年4月に全国社会保険労務士会連合会が新たに設けた制度であり、知名度としてはまだ低いかもしれません。
働き方の多様化や人材確保に向けて社内整備していくことが重要かと思いますので、社労士診断認証制度を用いて会社のあり方を今一度見直してみてはいかがでしょうか。
ではどのような認証マークがあるかをご説明して参ります。
認証マークは全部で3種類ございます。
(1)職場環境改善宣言企業
職場環境の改善に取組む企業がWEBもしくは社労士を通じて申請して企業が宣言することができます。
事務局にて確認・承認手続き後、 全国社会保険労務士会連合会から認証マークが付与され、認証企業としてホームページ上に企業情報が掲載されます。
審査基準はなく、職場環境改善の「宣言」を行うことのみで認証マークが取得できます。
(2)経営労務診断実施企業
上記(1)「職場環境改善宣言」を行なった上で、「経営労務診断基準」と呼ばれる診断項目に基づき所定の項目について社労士の確認を受けた企業に対して、全国社会保険労務士会連合会から認証マークが付与され、企業情報サイトに認証マーク情報を掲載されることとなります。
(3)経営労務診断適合企業
上記(1)「職場環境改善宣言」を行なった上で、「経営労務診断基準」に基づき必須項目のすべてが適正と認められた企業に、全国社会保険労務士会連合会から認証マークが付与され、企業情報サイトに認証マーク情報と各項目の調査結果を掲載されることとなります。
※「職場環境改善宣言企業」、「経営労務診断実施企業」、「経営労務診断適合企業」の文字列を含む認証マーク及び「経営労務診断」の用語は、全国社会保険労務士会連合会の登録商標です。
各認証マークの取得について
(1)「職場環境改善宣言企業」の取得方法
企業自らWEBから申請可能できる「セルフチェック」を利用するか、社労士に依頼して取得するかの2つの方法がございます。
(セルフチェックを利用する場合)
①社労士診断認証制度のサイトから「確認シート」をダウンロードする。
②確認シートを記入し、それを基に「登録専用フォーム」へ入力し送信する。
③事務局にて確認・認証手続きが行われ認証マークが発行される。
(社労士に依頼する場合)
①社労士と一緒に確認シートを作成する。
②社労士が確認・登録業務を行い、認証マークが発行される。
※社労士を新たに探したい場合や依頼する社労士がいない場合は下記から検索可能です。
社労士検索ページ|社労士診断認証制度
「職場環境改善宣言企業」確認シートの内容について
「労務コンプライアンス」と「働き方の多様化対応」の2つの分野に分かれております。
労務コンプライアンスでは、就業規則の整備や労働時間の管理や賃金などについて、
働き方の多様化対応では、介護や病気治療中の方・高齢者・外国人などが働きやすい環境を整備しているかなどを確認します。
現時点で整備されていない場合でも、今後職場環境改善に取り組んでいくことを宣言することで認証マークは付与されます。
「職場環境改善宣言企業」確認シートのフォーマットは下記URLからダウンロード可能です。
職場環境改善宣言企業「確認シート」のPDF表示・ダウンロード(全国社会保険労務士会連合会)
(2)「経営労務診断実施企業」、(3)「経営労務診断適合企業」の取得方法
「経営労務診断」の診断項目は「労務管理」「組織体制」「労務管理等に関する数値情報」の3つに分類されます。
「経営労務診断基準」に基づき社労士が各項目を診断し、改善を助言するものとなっております。
「経営労務診断」を実施すると(2)「経営労務診断実施企業」としての認証マークが付与されます。
「経営労務診断」にて必須項目のすべてが適正と認められた企業には(3)「経営労務診断適合企業」としての認証マークが付与されます。
認証マーク取得までの流れは下記の通りです。
①社労士に「経営労務診断」の依頼をし、診断を実施する。
②診断結果に応じた認証マークが発行される。
(イ)診断結果に改善を要する項目がある場合→(2)経営労務診断実施企業の認証マークが発行される。
(ロ)診断結果に改善を要する項目がない場合→(3)経営労務診断適合企業の認証マークが発行される。
認証マークが付与された企業は、「経営労務診断のひろば」に企業情報が掲載されます。「経営労務診断適合企業」となった企業は、実施した診断項目も公表されます。なお、適正と認められなかった項目がサイト内で特定されることはございません。
「経営労務診断」について
労務管理に関する調査項目
労務管理に関する調査項目は、さらに下記の4つに分類されます。
これらは法律に定められた労務管理に関する事項であり、すべて「適正」であることが求められます。
(イ)労務管理関連規程の整備
環境改善宣言企業で宣言した内容の深堀などをしていきます。
例えば就業規則の場合ですと、「就業規則の有無について」「意見書が添付された就業規則が労働基準監督署へ届出されているか」「労働者に周知されているか」などを「適正」「改善点あり」「対象外」の3項目で診断することとなります。
(ロ)労務関連管理体制
環境改善宣言企業で宣言した内容の深堀などをしていきます。
例えば労働時間管理、休憩・休日の場合ですと、「労働者全員の労働日ごとの始業・終業時刻が管理されているか」「休憩時間は適切か」「法定休日は法令通りに運用されているか」などが診断されることとなります。
(ハ)帳簿等の調製・保管
以下、4つの帳簿が必要事項を満たして保管されているかが診断されます。
「労働者名簿」「賃⾦台帳」「勤務表・タイムカード」「年次有給休暇管理簿」
(ニ)労働保険・社会保険
適正な日付で対象者全てを「労災保険」「雇用保険」「健康保険」「厚生年金保険」に加入させているかが診断されます。
組織体制に関する確認項目
企業の内部統制に必要な、次の3つの規程等が策定されているかを確認します。
(イ)組織図、組織規程
(ロ)職務(業務)分掌規程
(ハ)職務(業務)権限規程
現在、こちらは任意項目となっているため無くても問題はございませんが、企業の内部統制を図るためにも作成しておくことが好ましいといえます。
労務管理等に関する数値情報
下記の数値情報を確認します。
「従業員数」と「正規従業員の所定労働時間と法定労働時間」の2つは、「経営労務診断のひろば」のサイトで必ず公表することとなります。
(イ)従業員数 ※公表必要
(ロ)平均年齢
(ハ)平均年収
(ニ)正規従業員の所定労働時間と法定労働時間 ※公表必要
(ホ)一月当たりの一人の平均残業時間
(へ)従業員の平均勤続年数
(ト)女性管理職・役員数
(チ)採用における競争倍率(直近事業年度)
(リ)継続雇用割合(10事業年度前及びその前後に採用された従業員について)
(ヌ)(男性の)育児休業関連
(ル)中途採用比率(正規雇用労働者)
(ヲ)男女の賃金の差異
まとめ
社労士診断認証制度は、毎年診断を行い労務管理の見直しすることが可能となります。
そのため社内の単なる“お墨付き”ではなく、企業が「より良い職場づくり」を継続するための大切な指針となる制度です。
働く人にとって安心できる環境を整えることがこれまで以上に求められている今こそ、制度を上手に活用し、信頼される企業づくりへと繋げれるようにする一歩目であると思います。
まずは認証マークの取得に向けてみてはいかがでしょうか。
また、認証企業は下記のURLから検索が可能です。同業他社が認証マークの取得をしているかなどご確認されてみてはいかがでしょうか。
認証企業検索ページ|社労士診断認証制度(全国社会保険労務士会連合会)
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