人材開発支援助成金は、企業が従業員に対して研修や教育訓練を実施する際に、国から助成金を受け取ることができる制度です。
特に、OJT(職場内訓練)やOFF-JT(職場外研修)などを通じて人材育成に取り組む中小企業にとって、活用しやすい支援策のひとつとなっています。
令和7年度(2025年度)の制度では、助成内容や対象訓練の要件に一部変更が加えられており、最新情報を把握しておくことが重要です。
この記事では、人材開発支援助成金の概要と2025年度の主な変更点について、わかりやすく解説します。
目次
人材開発支援助成金とは
企業が社員のスキルアップやキャリア形成のために行う教育・研修活動に対して支給される助成金です。職務に関連した専門的な知識及び技能を習得させるための職業訓練等を計画に沿って実施した場合等に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成されます。
※本記事については「人材育成支援コース」を中心にご説明して参ります。
各種コースについて
人材開発支援助成金には様々コースがございます。
各コースの概要については下記の通りです。
(1)人材育成支援コース
雇用する被保険者に対して、職務に関連した知識・技能を習得させるための訓練、厚生労働大臣の認定を受けたOJT付き訓練、非正規雇用労働者を対象とした正社員化を目指す訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成するもの
(2)教育訓練休暇等付与コース
有給教育訓練等制度を導入し、労働者が当該休暇を取得し、訓練を受けた場合に助成するもの
(3)人への投資促進コース
デジタル人材・高度人材を育成する訓練、労働者が自発的に行う訓練、定額制訓練(サブスクリプション型)等を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成するもの
(4)事業展開等リスキリング支援コース
新規事業の立ち上げなどの事業展開等に伴い、新たな分野で必要となる知識及び技能を習得させるための訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成するもの
(5)その他
建設労働者認定訓練コース、建設労働者技能実習コースがあります
出典:厚生労働省「令和7年度版 人材育成支援コースのご案内(令和7年4月1日版)」
人材育成支援コースとは
人材育成支援コースには現在、3つのコースが存在しております。
(1)人材育成訓練
職務に関連した知識・技能を習得させるため 10時間以上の訓練(OFF-JT)を行うこと
(2)認定実習併用職業訓練
厚生労働大臣の認定を受けた実習併用職業訓練 (OFF-JT+OJT)を行うこと
(3)有期実習型訓練
正社員経験の少ない有期契約労働者等を 正社員等に転換するための訓練(OFF-JT+OJT)を行うこと
用語解説
■OFF-JT(OFF the Job Training )
企業の事業活動と区別して業務の遂行の過程外で行われる訓練
方法としては、通学制・受講中に質疑応答が行える同時双方型の訓練・eラーニング・通信制があげられます。
■OJT (On the Job Training)
適格な指導者(※1)の指導の下、企業内の事業活動の中で行われる実務を通じた訓練
原則、原則対面で行う必要があります(一部オンラインでも可)
例えば・・・ ・
■パソコン操作 ⇒ 顧客への礼状の作成はOJT
操作習得用の練習文書の作成はOFF-JT
■研磨作業 ⇒ 出荷品を研磨するのはOJT
出荷しない不良・廃棄品を使って研磨の練習をするのはOFF-JT
■パーマ施術 ⇒ 自店舗等でお客様に施術するのはOJT
モデルウイッグに施術するのはOFF-JT
(※1)申請事業主の役員等又は申請事業主に雇用されている者であって、訓練等実施日における出勤状況・出退勤時刻を確認できる者。
助成額
(1)助成率・助成額
出典:厚生労働省「令和7年度版 人材育成支援コースのご案内(令和7年4月1日版)」
※( )は中小企業事業主以外(大企業)の助成率・助成額。支給申請時点の企業規模で判定します
※1eラーニング、通信制による訓練は経費助成のみです。賃金助成は対象外です
※2訓練修了後に行う訓練受講者に係る賃金改定前後の賃金を比較して5%以上上昇している場合、または、資格等手当の支払を就業規則等に規定した上で、訓練修了後に訓練受講者に対して 当該手当を支払い、かつ、当該手当の支払い前後の賃金を比較して3%以上上昇している場合に、助成率等を加算
※3 有期契約労働者等について、正規雇用労働者等へ転換を行った場合
(2)1労働者1訓練あたりの経費助成限度額
出典:厚生労働省「令和7年度版 人材育成支援コースのご案内(令和7年4月1日版)」
※OFF-JTを受講中の時間のみ対象となります。OJTの時間は上記に含まれません
2024年からの変更点
(1)賃金助成額の引き上げ
()内は中小企業以外の助成額
(2)経費助成率の見直し
出典:厚生労働省「令和7年度版 人材育成支援コースのご案内(令和7年4月1日版)」
(3)その他
・計画届の提出時の審査省略(支給申請時に一括して審査)
・計画届の提出期間
2024年まで:訓練開始日の1か月前まで
2025年から:訓練開始日6か月前から1か月前までの間
・申請書類・添付書類の簡素化など
人材育成訓練について
職務に関連した知識及び技能を習得させるための10 時間以上の訓練(OFF-JT)を行う場合に活用できるコースです。
有期雇用労働者等だけではなく正規雇用労働者も助成の対象となります。
ただし、正規雇用労働者の場合は有期雇用労働者等に比べ助成率は低く設定されています。
支給要件
(1)職務に関連した専門的な知識および技能の習得をさせるための訓練であること
(2)OFF-JTであること(OJTは対象外)
(3)「通学制」、「同時双方型の通信訓練」、「eラーニング」又は「通信制」であり、1コース当たりの訓練時間が10時間以上であること
(4)訓練対象者が訓練実施期間中及び訓練終了日もしくは支給申請日に雇用保険の被保険者であること
※その他、細かな要件等がございます。ご検討の場合はお問合せフォームからお願いします。
支給例
有期契約労働者等に対して、OFF-JTを15時間実施。
OFF-JTにかかった費用が50,000円だった場合
※賃金要件・資格等手当要件は満たさないものとする。
■経費助成率:50,000円×70%=35,000円の助成
■賃金 助成:800円×15時間=12,000円が助成
⇒合計47,000円(35,000円+12,000円)が助成される計算となります。
出典:厚生労働省「令和7年度版 人材育成支援コースのご案内(令和7年4月1日版)」
※正規雇用労働者等に対して、訓練を実施した場合は中小企業45%(中小企業以外30%)、訓練修了後賃上げを実施した場合は中小企業60%(中小企業以外45%)
認定実習併用職業訓練について
主に新規学校卒業者を対象として、厚生労働大臣の認定を受けOFF-JT とOJT を組み合わせた訓練を6か月以上行い、中核人材を育てるためのコースです。
支給要件
(1)職務に関連した専門的な知識および技能の習得をさせるための訓練であること
(2)大臣の認定を受けた訓練であること(※1)
(3)OFF-JTについては、「通学制」又は「同時双方向型の通信訓練」であり、1コースあたり10時間以上であること
(4)OJTについては、原則対面で行い、実施日ごとに「OJT実施状況報告書」を作成すること
(5)OFF-JTを受講した時間数がOFF-JT実訓練時間数の8割以上であり、かつ、OJTを受講した時間数がOJT総訓練時間数の8割以上である労働者であること(訓練計画時間が100時間だった場合は、80時間以上は訓練を実施する必要があります)
(6)訓練実施期間中において、雇用保険の被保険者であること
(7)訓練開始日において、15歳以上45歳未満であること(※2)
(8)新規学卒予定者以外の場合は下記の対応が必要となります。
キャリアコンサルタントなどによるコンサルティングを受け、認定実習併用職業訓練への参加が必要と認められる者。
その他、細かな要件等ございます。ご検討の場合はお問合せフォームからお願いします。
(※1)大臣認定の基準とは
①訓練対象者が15 歳以上45 歳未満の者であること
②訓練実施期間が6か月以上2年以下であること
③総訓練時間数が1年当たりの時間数に換算して850 時間以上であること
④総訓練時間数に占めるOJT の割合が2割以上8割以下であること
⑤訓練終了後にジョブ・カード様式3-3-1-1 「職業能力証明(訓練成果・実務成果)シート(企業実習・OJT 用)」により職業能力の評価を実施すること
※この訓練をすれば対象になる。といったものはありません。
上記の基準を満たす内容で訓練を計画する必要があります。
(※2 ) 次の①~③いずれかに該当すること
①新たに雇い入れた被保険者(雇い入れ日から訓練開始日までが3か月以内である者に限る
②大臣認定の申請前にすでに雇用されている短時間等労働者、かつ同一の事業主において通常の労働者に3か月以内に転換した者
③すでに雇用している被保険者
支給例
有期契約労働者等に対して、OFF-JTを90時間、OJTを335時間実施。
OFF-JTにかかった費用が300,000円だった場合
※賃金要件・資格等手当要件は満たさないものとする。
■経費助成率 :300,000円×45%=135,000円の助成
■賃金 助成 :800円×90時間=72,000円が助成
■OJT実施助成:200,000円
⇒合計407,000円(135,000円+72,000円+200,000円)が助成される計算となります
出典:厚生労働省「令和7年度版 人材育成支援コースのご案内(令和7年4月1日版)」
有期実習型訓練について
正社員経験の少ない有期契約労働者等を正社員に転換させるために、 OFF-JTとOJTを組み合わせた訓練を2か月以上行い正規雇用労働者への転換を目指すコースとなります。
原則、正規雇用労働者へ転換を実施した場合に限り、助成対象となります。
※このコースでの正規雇用労働者とは、通常の正規雇用労働者のみならず、勤務地限定正社員、職務限定正社員または短時間正社員への転換。また有期雇用労働者を無期契約労働者への転換。上記にあげたものに転換したこと者をいいます
支給要件
(1)正規雇用転換を目的に職務に関連した専門知識及び技能の習得をさせるための訓練であること
(2)OJTとOFF-JTを効果的に組み合わせOJTの割合が1割以上9割以下であること
(3)訓練実施期間が2か月以上であること
(4)総訓練時間が6か月当たりの時間数に換算して425時間以上であること
(5)OFF-JTについては、「通学制」又は「同時双方向型の通信訓練」であり、1コースの 実訓練時間数が職業訓練実施計画届の届け出時及び支給申請時において10時間以上で あること
(6)訓練の終了日または支給申請日に雇用保険の被保険者であること
(7)訓練開始前及訓練実施期間中において有期雇用労働者であること
(8)OFF-JTを受講した時間数がOFF-JT実訓練時間数の8割以上であり、かつ、OJTを受講 した時間数がOJT総訓練時間数の8割以上である労働者であること
(9)キャリアコンサルタント等により、職業能力形成機会に恵まれなかった者として事業主が実施する有期実習型訓練に参加することが 必要と認められ、ジョブ・カードを作成した者であること(※1)
(※1)下記①②のいずれかに該当する者
①キャリアコンサルティングが行われた日前 の過去5年以内におおむね3年以上通算して正規雇用されたことがない者であること。
ただし、過去10年以内に同一企業におい て、おおむね6年以上継続して正規雇用として就業経験がある者を除く
② ①において対象外とされた者で過去5年以内に半年以上休業していた者、座学の職業訓練の受講が全くない者、あるいは、過去5年以内に1年未満での離転職を繰り返したことにより正規雇用の期間が通算して3年以上となる者など。
※その他、細かな要件等がございます。ご検討の場合はお問合せフォームからお願いします。
(有期実習型訓練のイメージ)
出典:厚生労働省「令和7年度版 人材育成支援コースのご案内(令和7年4月1日版)」
支給例
有期契約労働者等に対して、OFF-JTを32時間、OJTを268時間実施。
OFF-JTにかかった費用が150,000円だった場合
※賃金要件・資格等手当要件は満たさないものとする。
■経費助成率 :150,000円×75%=112,500円の助成
■賃金 助成 :800円×32時間=25,600円が助成
■OJT実施助成:100,000円
⇒合計238,100円(112,500円+25,600円+100,000円)が助成される計算となります
出典:厚生労働省「令和7年度版 人材育成支援コースのご案内(令和7年4月1日版)」
補足
(1)有期実習型訓練は有期契約労働者等を正社員に転換させるための訓練です。
原則、正社員転換が助成金の支給を受ける要件となっております。
例外的に正社員転換をしなくても助成金の支給を受けられる可能性があります。
例えば、訓練計画時に正社員となるための一定の基準を設けて、訓練終了後に設けた一定の基準に達した場合に正社員転換するとした場合に、基準に達しなかったため正社員転換を見送りにした場合など。
上記のような場合には支給決定日までに以下の①~③全てを満たせば「人材育成訓練」の助成を受けれる可能性があります。
①職業能力開発推進者を選任していること
②事業内職業能力開発計画を策定・周知していること
③定期的なキャリアコンサルティングの機会の確保等について定めていること
(2)「有期実習型訓練」と「人材育成訓練(有期契約労働者)」の助成額の違いは以下の通りです。(中小企業で通常分の場合)
人材育成訓練(青□部分)・・・経費助成率70%、賃金助成額800円、OJT実施助成額0円
有期実習型訓練(赤□部分)・・経費助成率75%。賃金助成額800円、OJT実施助成額10万円
人材育成訓練で助成をうけると、有期実習型訓練より経費助成率が5%低くなり、OJT実施助成額の10万円がもらえなくなるという計算になります。
賃金助成に関しては同額が支給されます。
出典:厚生労働省「令和7年度版 人材育成支援コースのご案内(令和7年4月1日版)」
まとめ
人材育成支援コースは、企業の成長に不可欠な人材の育成を支援するために設計されたプログラムです。このコースを受講することで、社員は自身のキャリアアップを図ることができ、企業は優秀な人材の確保につながります。人材育成は単なる教育・訓練にとどまらず、組織の未来を築くための重要な投資であることを忘れずに、今後も継続的な取り組みを行っていくことが求められます。
またキャリアアップ助成金 正社員化コースと組み合わせることで助成金額が増える可能性もあります。
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※本内容は令和7年4月時点のものです。助成金内容は変更される可能性があるため、最新情報をご確認の上、申請を行ってください。